「ファゴットはないよ……」
高校に入って間もなくの2年前、福元陽依(ひより)さんは先輩から衝撃の事実を聞いて、泣いた。
中学で吹奏楽部だった福元さんが龍谷大平安(京都)を進学先に選んだのは、平安の野球の応援に憧れたからだった。
「いかついやつ」「ドカーン」。高校野球ファンによく知られる一風変わった名前の応援曲は、ほとんどがオリジナルだ。
特に、重低音のボレロのようなリズムが不穏な空気を醸し出す「あやしい曲」は平安の代名詞。アルプススタンドから流れると、相手校に威圧感や「追い込まれる感じ」を与える。そんな応援に加わりたいと思った。
中学の吹奏楽部で吹いていたのはホルン。高校では、少人数の中学校にはなかったもう一つの憧れ、「ダブルリード属」のファゴットを選んだ。
だが、実はダブルリード属の木管楽器は日射などに弱く、野球の応援には加わらないことが多い。それを先輩から聞いたのは、練習を始めてしばらくが経ってからだった。
アルプスの夏音
高校野球の応援の演奏をめぐる物語
声で応援 「いつかは」の願いが…
1年生が終わるころの「春の…